【天・気になるシゴト】ブドウが美味しいワインになるまで

大学で発酵を学び、ワインの道に進んだ「深川ワイナリー東京」の醸造責任者・上野浩輔さん。今回はブドウからワインになるまでの流れや、どのようなことに気を配っていらっしゃるかについてお聞きしました。


上野浩輔さん


―― ブドウからワインになるまでの工程について教えてください。

ブドウがここに届いてからの流れを大まかにいうと、こんな順番です。

① ブドウが集まってきます。

② 除梗・破砕、果実と茎・枝を分けます。
この機械の中にブドウを入れてプロペラが回るとブドウがバラバラになって、粒だけが落ちてきます。100年以上、このしくみは変わっていないんですよ。
日本の技術はすごいと思いますね。歴史博物館にいくとこの模型があるんですが、実際に使っていたものらしいんです。

③ 搾汁。プレス機を使ってブドウ果汁を搾ります。
粒だけになったブドウをこのステンレス容器内に入れて回転させほぐし、容器内に仕込まれた風船が膨らんで内の壁にブドウを押し当て搾ってくれる、という仕組みです。

④ 発酵と醸し(かもし) 朝と晩、毎日醸します。
発酵させる樽に入れて朝晩2回かき回して醸します。表面に菌が繁殖しないようにすることも大事ですからね。この工程は1週間~10日間程度です。

この中に入っているものは今3日目くらいです。発酵に最適な気温は赤ワインは20度前後、白ワインだと11~12度くらいでしょうか。11月になって朝の気温が16~17度になってくると発酵速度が緩やかになります。


温度が高い状態で発酵させると蒸れたような香りが出てしまうし、発酵がすぐに終わってしまうんです。逆に発酵時間が長いと、果肉や皮、酵母と接している時間が長いのでしっかりとした果実の香りがつき、フルーティな仕上がりになります。なので小まめに味見をしながら温度の管理をしっかりとしていきます。

⑤ ステンレスタンクで発酵させます。
発酵用のステンレスタンクに移して発酵させます。この状態から出荷まで最低2ヶ月です。この段階で細かくチェックし発酵の状態を調整します。

⑥ フィルターでろ過。澱や雑味を除去します。
深川ワイナリー東京では、ろ過と無ろ過、両方のワインとスパークリングワインを造っています。ろ過のワインはブドウの果肉や皮、酵母などの食物繊維や澱や雑味を取り除き、すっきりとお酒らしさを強調します。無ろ過のワインは、ブドウの食物繊維が残った状態のワインです。添加物を加えず仕上げた無ろ過のワインは、まるでブドウを食べているかのような果物感が強いワインになります。また、糖分を残し生まれてくるガス圧を計算し瓶詰をすると、瓶内二次発酵によりスパークリングワインが仕上がります。

⑦ ステンレスタンクから瓶詰の他、木樽(オーク)で熟成させ、瓶詰めして出荷します。


―― 味を見るためのなにか特別な機械などがあるのでしょうか? もしくは味がわかるようになるまでどれくらいの修行期間が必要ですか?

テイスティングのための機械というか、データを取るための機械はありますが、僕たちは「感覚」を大事にしています。修行というよりは農業ですね、ワイン造りも農業のように「育てる」仕事なので。ブドウ栽培をしながらワインをどのように育てるか考える…年を重ねれば重ねるほど過去の経験値が蓄積されて、こういうときはこうだとか、感じるようになるんです。

今年の8月は猛暑だったけれど、9月は台風が来てしまうのでは?と経験からの予感があって。そうすると今年は赤ワインを造るためのブドウはいいものができるだろうかと心配になる、となるとそのための準備をしたりします。

―― そういう時(良いブドウが期待できないとき)は、どうなってしまうんでしょう?

「良いブドウが育たないかも」ってことですよね。同じ赤ワインのブドウでも10月に入ってからくるものは期待してはダメかな、とか。そうした連絡を9月後半にもらって…カベルネソーヴィニヨンが全滅…やっぱりそうか。となると違うブドウでなんとか作るしかない!という準備になりますよね。台風で葉っぱがなくなって光合成しない、日照量が不足して着色しない、暑すぎてダメなときもある…毎年状況は変わります。

でもその年に出来たブドウで僕たちは僕たちの仕事でベストを尽くしかありません。例えば価格を調整したりすることもありますが、お客さんから「今年のワインは色が薄いね~」なんて言われながら飲んでいただいたりしてね。

―― 発酵や製造過程で調整できることは?

ある程度はできますが、色や酸度・糖度は変えられません。だから自分達でどう美味しく仕上げていくかにかかってきます。色が薄いなら薄いなりに、どうすれば美味しく飲んでいただけるか、出来る限りのことを全部やって工夫します。

ある年、メルローに全く色がついていなくて、ロゼワインのようになったことがありました。メルローといえば一般的には真っ黒なワインを思いますよね。だからそんな薄い色のワインは「ロゼ」と表示いたしました。微妙な感じの色でしたが、ロゼとしてお客さまには「美味しい」と言っていただけました。

―― 生産して何年後に出荷になるのでしょうか?

ここは倉庫がないのですぐ出荷します。家で寝かせていただいてもよいですが、ワインに最適なコンディションを一般のご家庭で、となるとなかなか難しいと思いますので、できる限り早めに飲んでいただきたいですね。


なるほど!出来立てのフレッシュなワインを味わう、ですね。実際に飲ませていただきましたが、とても華やかで開放的な、まるで上野さんのお人柄そのもののワインでした。上野さん、ありがとうございました。第3弾は恒例「5つの質問」をお聞きします。

取材協力:深川ワイナリー東京 上野浩輔さん

http://fukagawine.tokyo/

(アール)