衝撃的な西日本豪雨災害 ~2018年の気象を振り返る②

先日「異常」という言葉が頻出!2018年の気象を振り返る①」で、今年の気象について気象予報士とともに振り返った事象を発表させていただきました。そのトピックについての、気象予報士の解説をお届けしたいと思います。第1弾は「平成30年7月豪雨」、解説はがんちゃん気象予報士です。


前例のない梅雨末期豪雨

今年の西日本豪雨(平成30年7月豪雨)は今までに経験のない規模で発生しました。ふだんは雨があまり多くない山陽地方でも300~500mmという数ヶ月分の雨が一気に降り、あちこちで土砂崩れや浸水害が発生し、想定を大幅に超える未曾有の災害になりました。私たち気象予報士も何十年と気象予報や災害を見てきた中で、今回のような大雨災害は記憶になく、あまりに強烈な出来事でありました。

梅雨の終わりころになると太平洋高気圧が強まってくるとともに、高気圧の縁をまわるように湿った空気の帯である「湿舌(しつぜつ)」が西日本に伸びてきて、前線付近で次々と積乱雲を発生させることで毎年のように大雨の災害が起こります。多くの被害を出した平成26年の広島豪雨、平成29年の九州北部豪雨など、その多くのケースでは比較的局地的に大雨が集中して降るものですが、今年はあちこちで次々と線状降水帯が発生し、九州、中国、四国、近畿、東海地方に大雨特別警報が発表されるなど、まさに「同時多発型豪雨災害」というべきものでした。

広島県の豪雨災害現場転がる巨岩は土石流のすさまじさを物語る

事前に予測されていたものの…

この大雨の数日前は、7月2日に沖縄に最接近したのち翌7月3日に九州北部から日本海に進んだ台風7号に関心が集まっていて、九州では南寄りの暴風が吹き荒れたのですが、台風本体の雨雲は海上が主体で西日本では雨はさほど降らず、大きな被害もなく台風が去ってやれやれといった状況でした。


しかしこの時点で、気象庁のスーパーコンピュータが弾きだしていた数値予報は、この台風の通過後、台風一過とはならず、数日後には西日本一帯をまとまった雨雲が埋め尽くし、東海地方を中心に広域で大雨になるおそれがあることを予想していました。同5日、早くも梅雨前線の活動が活発化、北陸~九州で激しい雨が断続して降り、気象庁は台風や大雪以外では異例となる会見を行い「非常に激しい雨が断続的に数日間降り続き、記録的な大雨となるおそれがある」と注意喚起を呼びかけました。この時点ですでに各地の河川は増水し、近畿地方だけでも8万人に避難指示、33万人余に避難勧告が出されました。

西日本に流入する大雨のもと(850hPa相当温位 ピンク色>348K)

翌6日には降り続く雨により、福岡県添田市で日降水量391mmをはじめ、岡山、広島など37地点で観測記録を更新。各地で鉄道の運休や河川の氾濫、土砂崩れなどが相次ぎ、新幹線は岡山-博多間で運休。桂川の増水で京都市右京区の嵐山の渡月橋は2013年の台風18号以来の越水など、あちこちで被害が拡大していきます。
そして、ついに夕方には岡山、広島、鳥取、福岡、佐賀、長崎、京都、兵庫の8府県に大雨特別警報が発表されました。近畿や九州、中国など2府22県で約115万人に避難指示、約264万人に避難勧告。9人が行方不明になったとの情報も出始めました。

これだけ同時に特別警報が出ることは、この先あってほしくはないですね

7日朝は愛媛県や高知県でも猛烈な雨となり、愛媛県では西予市で肱川が氾濫。岡山県では、倉敷市真備町で小田川などの堤防が崩れ、大規模な冠水被害が発生したことは大きく報道されました。
大雨の範囲は東に移り岐阜県にも大雨特別警報が発表。岐阜県郡上市ひるがのでは降り始めから(72時間)の降雨量が868.0mmで過去最大。この大雨により47人が死亡、行方不明者は60人超に被害が拡大しました。

各都市の48時間降水量(いずれも観測史上1位)
京都府福知山市 422.5mm
大阪府能勢町 433.0mm
兵庫県西宮市 394.5mm
岡山県真庭市久世 400.5mm
広島県広島市中区 407.0mm
鳥取県智頭町 435.0mm
愛媛県今治市 418.0mm
山口県岩国市玖珂 455.0mm
福岡県添田町 536.5mm

交通障害も極めて広域にわたり、道路やライフラインはあちこちで寸断、産業活動に大きなも影響を及ぼしました。後の試算では、これらの一連の被害は数兆円規模に達すると言われています。

西日本の陸の大動脈が軒並み断絶

そして7月9日、記録的な梅雨末期豪雨に見舞われた西日本では青空が広がり、ほぼ一斉に梅雨明け。皮肉なことに梅雨のパワーがこの西日本豪雨の数日間に凝縮されたような格好になりました。

ちなみにこの後日本列島は災害級の猛暑へとステージが移行していき、国内最高気温の記録を更新。2ヶ月間の夏の終わりには秋との攻防も激しさが際立ち、9月7~9日にかけては、過激化する秋雨前線の影響により、中国地方は再び300mmを超える大雨に見舞われました。

今後に向けて

現在、研究者たちはこの豪雨で起きたことを振返り、あらゆる角度から検証しています。
数日前に通過した台風7号に引きずられて西日本に流れ込んだ湿舌の幅が大きく、長時間持続したことも原因の一つですが、なぜ湿った空気の流入が同じ場所で持続したかというと、この夏は上空を流れるジェット気流が蛇行していたためで、スムーズに西から東へ動くはずの天気(雨雲)の流れが滞ってしまい、これが異常気象発生の大きな引き金となりました。

大きな課題として残るのは、大雨がある程度事前に分かっていたのにもかかわらず、なぜ人的被害の拡大を防ぐことができなかったのか?という点で、情報伝達や注意喚起の在り方に関しては有識者間で議論や検討が進められて改善されていることもある一方で、「まさか自分のところは大丈夫だろう」という俗にいう正常化バイアス(*)の問題やオオカミ少年化する情報乱発の在り方も含めて、より複雑化、高度化する情報体系の功罪についても考える時期にきているようです。


がんちゃん予報士、解説ありがとうございました。
「正常化バイアス」とは、自分にとって都合の悪い情報を無視したり、軽視したり、過小評価したりしてしまうといった“人の特性”で、「これまで大丈夫だったんだから、今回も大丈夫!」「私は大丈夫」「まだ大丈夫」といった心理になることをいいます。
防災の課題については今後も改善案が検討されていくと思いますが、まずは私たちひとりひとりが日頃から防災意識を持つことも大切ですよね。自分と家族の安全を守っていけたらと思います。

(アール)