刺身醤油に脂の膜がはるのがわかるほど、脂の乗った身が絶賛され、その名も「脂っこい(むつっこい)」ことからつけられたといわれる「ムツ」。世界中に「○○ムツ」という名前のサカナは数多あるけれど、いわゆる本筋のムツに属する魚は1属4種類のみなんだそう。日本近海にいるのはムツとクロムツですが、この2種類はとてもよく似ていて専門家でも見分けがつけづらく、市場では総じて「ムツ」として扱われているようです。
別名「ノドグロ」と呼ばれる高級魚・アカムツは、名前に「ムツ」とついてはいるけれど、ムツの仲間ではありません。
■立派な歯をもつ食いしん坊
ムツは肉食で、稚魚の頃は動物性プランクトンを食べていますが、体長が4~5cmになる頃から他の魚の稚魚や小型の甲殻類を食べるようになります。エラ蓋には棘があり、大きく開く口、鋭い歯が並んで、正面から見るとかなり獰猛な感じです。調理をする際もこの歯に気をつけないと、スパッと手を切ってしまうほどの鋭さ。
そしてその細い体からは想像できないほど、よく食べる食いしん坊。釣りをする方ならご存知かもしれませんが、キンメダイを釣る時にムツがよく釣れてしまうのは、この食いしん坊のため。ムツはお腹いっぱいでも、食べることを止めずに他の魚を捕食しようと狙うんだそうです。深海魚は「食いだめ」ができるサカナとされていますが、それも影響しているのかもしれないですね。
■ムツの呼び名あれこれ
地方名を調べていると、ユニークなエピソードがありました。仙台の辺りではムツを「ロクノウオ」と呼ぶ地域があるそうです。これは、仙台の伊達家は「陸奥守(むつのかみ)」と呼ばれる官職でしたが「ムツ」というと藩主を呼び捨てにすることになるので、ムツ=六=ロクと読み(呼び)方を変えたとか。また、富山地方では「カラス」という名前。ムツの見た目が黒っぽいからでしょう。このように黒いサカナを「カラス」と呼ぶ例は、他にもいくつかあります。深海魚の特徴であるぎょろ目から「メダカ」「メバリ」などと呼んでいる地域も。サカナの名前は見た目に影響するところ大、なんですね。
■旬と調理
ムツの旬は冬。12月~3月の寒い時期が美味しいとされています。体に張りがあり、目が澄んでいてエラがキレイな赤色のものを選ぶと良いそう。サカナを選ぶコツは「目とエラ」の場合が多いですが、ムツもまさしく目とエラ。ただし、ムツの場合は深海魚でもあるので、目は参考になりづらい場合も。エラに注目して選びましょう。
さて、調理法。煮ても焼いても美味しいサカナですが、新鮮なムツが手に入ったらお刺身で頂くのが一番!ただし、ムツの身はかなりやわらかくてさばくのが大変です。身が割れないように注意しましょう。鋭い歯にも気をつけて。
(アール)