【天・気になるシゴト】東京の下町にワイナリー!?

日本国内でワインの産地といえば山梨や長野を思い浮かべる方が多いと思いますが、なんと東京のど真ん中の下町に「ワイナリー」がありました!
門前仲町とJR越中島の間、清澄通りからちょっと入った一角にある「深川ワイナリー東京」を訪ね、醸造責任者・上野浩輔さんにお話を伺いました。

上野浩輔さん

―― 東京にワイナリーがあるなんてびっくりしました。

日本の下町らしい「モノヅクリ」だけではなく「コトヅクリ」としてワインを提供していきたい…というオーナーの考えに共感し、ここで今やっているのはワインの醸造ですが、いずれ江東区で育ったブドウでワインを造りたいと考えています。
門前仲町に赤札堂ってスーパーがあり、そこの屋上でビヤガーデンならぬワインガーデンを始めました。そこでブドウ栽培も苗からスタートさせて、4年後ワインにできるようなしっかりした実がついたら、江東区育ちのブドウで造ったワインの誕生です。

―― ワイン醸造だけでなく、ブドウ造りもされるんですね。

ここに来てからは醸造だけですが、今年の春からプランターでブドウの苗を育てていまして、醸造所の前にあるプランターが、接木(つぎき)をして要らないところを全部切って、新しい芽をつけるための準備をした樹です。

僕は滋賀で17年半、新潟で5ヶ月ワイン造りをしており、以前はブドウ畑で土もいじっていました。滋賀ではシラーを育てまして、これが真っ黒な素晴らしい実をつけてくれたんですが、実は裏話がありましてね。7年目頃まで全く良い実がつかなくて、とある大学の先生に相談したら「実を半分に切ってみろ」って言うんです。シラーの実はかなり長くて人の顔くらいの大きさです。この長さで本来全部の実に回る予定の栄養が、半分に切った残りの実に凝縮されるから、って。こうして栽培方法を変え、糖度が高く色の濃い素晴らしいブドウが実ったんです。

―― どれくらいの期間で「ワインに適したブドウ」になるのでしょうか?

ブドウが食べ頃になるのは4年程度とされていますが、ワインに適した「ワイン頃」になるのは7~8年目くらいですかね。それくらい経たないとブドウに味がのってこないんです。年を追うごとに実の周りにつく成分が形成されたり安定したりしていきます。ですが15~20年になってくると、今度は逆に樹が疲れてしまうんですね。けれど土地に適合しているとブドウの樹が疲れることなく、40~50年間しっかり実がなるものもあるんです。

―― 1本の樹にどれくらいの量のブドウが実るのでしょう?

およそ8kgくらいでしょうか。今回はこれが50本ありますので400kgの収穫となり400本のワインができます。ブドウの70~80%がワインになりますので、1kgが1本分といったところです。手で搾ると大体50%くらいですが、今は優秀な機械があります。

―― 今年(2018年)のブドウはどんな感じですか?

今年は色素が強くて濃いブドウができています。今年の夏は暑かったでしょう。猛暑と言われていましたが、ブドウにとっては晴れて湿度が低く、からっとしていた方が病気になりにくいですし、糖度や色の状態が良い場合が多いです。

―― 今使っているブドウの産地はどちらですか?

日本だと、山梨、山形、青森津軽、長野、北海道から来るブドウもあります。海外はオーストラリア。季節が反対ですから、日本のブドウが終わる頃にオーストラリアのブドウが届くといったサイクルです。

―― 日本とオーストラリアのブドウの違いは?

一言で言うと糖度です。日本のブドウの平均糖度が18~20度、オーストラリアのブドウは少なくとも21度、蜂蜜のような粘性を持っています。糖度1度って、アルコール度数で言うと約0.5度強違うので、全く違うといえます。糖度の半分がアルコール度数に変わり、糖度が21度あると11度を超えてきます。25度もあれば13度のアルコールに変わるんです。

そのように糖度の高いオーストラリアのぶどうから造るワインの仕上がりは、日本のぶどうから造るワインの醸造方法と別段変わりなく、なによりも我々の土地・風土に合ったワイン造りを意識し、例えば江戸前寿司をはじめとした和食に相性のいいすっきりとした辛口の白ワインに、豚の角煮や肉じゃがと相性のいい赤ワインに、仕上がりの的を絞ります。

―― ここ、江東区・深川の風土のワインはどんな感じですか?

そうですね、関西でワインを作っていたころに比べ、アルコール度数を約1度上げました。江戸三大祭りの一つ、深川祭で有名な地域性と、関西の淡い味わいのお野菜に比べ、地域に流通するお野菜の味わいを濃く感じ、しっかりとした味わいのお料理が多いことからです。

また、今この醸造所には、ワンコインバルの「テイスティングラボ」と予約制レストラン「ワインマンズテーブルを併設しています。レストランで月曜・火曜に担当してくれている鮨懐石の料理長や火曜日から日曜日のイタリアンのシェフに寄り添ったワインを造っています。特に白ワインは、トロピカルで果実味たっぷりのワインではなくて、ちょっと日本酒寄りのワインに、自分も日本酒が好きですし、なので白桃のような香り、日本酒でいう吟醸香を感じるワインを仕上げます。(笑い) 僕自身は山梨大学でブドウ栽培や醸造学を学び、僕が選んだ道はワインですが、同じ大学を出た先輩や同期、後輩は日本酒業界にも大勢います。

寿司だって握る大将によって握り方や味わい、こだわりが違います。ワインもまた人によって違ってきます。オーストラリア産のブドウで、オーストラリア人が造るワインと我々が造るワインを飲み比べると、僕らのワインは日本的になります。


東京にワイナリーがあるなんてびっくりしましたが、確かにそこで「日本らしいワイン」がとても美味しく育っていました!上野さんは発酵の勉強をされてからワインの道に進まれたのですね。次回はブドウがワインになる工程をご紹介します。

取材協力:深川ワイナリー東京 上野浩輔さん

http://fukagawine.tokyo/

(アール)