全国版台風ハザードマップへの挑戦!

「台風ソラグラム」を共同研究した横浜国立大学・筆保弘徳准教授よりシリーズ4回にわけて紹介します。第1 回は「台風ハザード情報への挑戦!」です。

横浜国立大学・筆保弘徳准教授


台風の接近にともなって吹き荒れる凶暴な風は、家屋を倒壊(図1)し農作物を壊滅させ、時には死傷者まで出す甚大な被害を引きおこしています。
それぞれの地域から見れば、台風がその地域を直撃すると暴風になり、さらにその地域の東側よりも西側を台風が通過した時に強風になりやすいと考えられていました(注1)。しかし、実際の風の強さはそれぞれの地域周辺の地形の影響を受けていて、強風をもたらす台風の経路は地域によって違います。
例えば2004年台風23号通過時では、岡山県奈義町で最大瞬間風速毎秒50メートルを超える暴風が吹き(注2)、神社が倒壊するなどの被害がでましたが(図1)、台風はその地域より南東約200kmの紀伊半島を通過している時でした。
もしも地域ごとに危険な台風経路が前もって分かれば・・・、きっと台風の被害は今よりもずっとおさえられるはず。

図1:2004年10月20日、台風23号通過時に強風被害にあった諾神社 (岡山県勝田郡奈義町)の被害の様子。台風はその地域から南東200km離れた紀伊水道を通過。被害の詳細は2004年9月30日山陽新聞朝刊など。写真は片岡文恵さん提供。

 

米国の研究(注3)では、横須賀米軍基地で長年観測された風を集めてその時の台風中心の位置でマッピングする手法で、横須賀基地にとって強風の危険となる台風の位置や経路を算出しました。そして、その台風の位置と強風発生の関係を示す図を「台風ノモグラム」と名付けました。
日本の研究(注4)でも、観測データを用いて沖縄地方での危険な台風の経路が調べられています。これらの研究結果により、台風の経路に対してその地域の風の危険性が前もってわかる、いわゆる「台風ハザードマップ」が作られてきたわけです。

しかし、従来の観測データを用いた手法では、風の観測を十分に行っている地域でしか台風ノモグラムは作成できません。また、経験的な作成手法でもあるため、過去に襲来した台風の観測結果に限定するという弱点もあります。
そこで我々は、コンピュータ技術を駆使した数値シミュレーションという手法により、約1000ケースのバーチャルな台風を日本に意図的に上陸させ、台風が原因で発生する風を人工的に作成しました。そして、台風がどの経路を進むと強風が発生しやすいかを調べ、全国の地点における台風ハザードマップを作成することに挑戦しました。


注1:
台風は反時計回りの風を発生させているが、台風の移動速度が加わるため、台風の進行方向の右側では左側よりも風が強くなります。進行する台風の右側は強風の領域のため「危険半円」、左側は比較的風が弱い領域のため「可航半円」と呼ばれています。
注2:
台風が紀伊半島や紀伊水道を通過する時、岡山県と鳥取県の県境にある那岐山の影響を受けて、岡山県奈義町に「広戸風」と名付けられた強い南風が吹きます。この広戸風の地形効果のメカニズムを示した論文は以下です。Fudeyasu, H., T. Kuwagata, Y. Ohashi, S. Suzuki, Y. Kiyohara, and Y. Hozumi, 2008: Numerical study of the local downslope wind “Hirodo-kaze” in Japan. Mon. Wea. Rev., 136 (1), 27-40.
注3:
Jarrell, J. D. and R. E. Englebretson, “Forecast aids for predicting tropical cyclone associated gusts and sustained winds for Yokosuka, Japan”, (1982)
注4:
比嘉 恒貞, 上江洌 司, 金城 康広, 「南大東島における台風用ノモグラムの作成」, 沖縄技術ノート, 第40号, pp.10-16, (1992) ・南大東島地方気象台, 「南大東島の台風ノモグラムの改良」, 沖縄技術ノート, 第55号, pp.40-46, (2000)


第1回
全国版台風ハザードマップへの挑戦!>
第2回
300年待つ? 代わりに、台風経路アンサンブルシミュレーション>
第3回
完成! 全国版台風ソラグラム>
第4回
台風ソラグラムの展望>