【天・気になるシゴト】魚屋の兄ちゃんが「ハイパー干物クリエイター」になったワケ

さまざまなお仕事と天気の関係をお聞きする「天・気になるシゴト」、第5弾に登場いただくのは“ハイパー干物クリエイター”の藤間義孝さん。そのハイパーな干物と藤間さんが干物づくりを始めたきっかけ、美味しい干物づくりの極意にせまります。

藤間義孝さん

―― 藤間さんが干物づくりをしようと思ったきっかけはどんなことだったんでしょう?

その向かいに石山干物店って看板があるでしょう? あそこの息子さんが僕の友人なんです。そこで干物をつくっていた職人さんがだいぶ歳をとられて手伝いが必要になったと。「よかったら来てくれないか?」と誘われました。当時、他の魚屋で仕事をしていたので、僕が魚をおろせるのを知っていたんです。

魚屋で仕事をしていたのも「たまたま」で、干物についても特に思い入れとかこだわりがあったわけではなく、友達のお願いだったから。本当、正直に言うとはじめはそんなノリですね。

友だちは他の土地で別の事業をやっていたので干物屋を継がず、職人さんの引退で石山干物店は廃業することになりました。戦後から続く老舗だったので本当に残念なことですが、このときに場所を間借りして独立してやってみようと思ったんです。

―― なるほど、偶然というか、ご縁だったんですね。

はい。そういうわけで本格的に干物屋をやることになりました。当然お客さんがいるわけでもなく、どうやって干物を売るか?すべてが手探り状態です。

最初は周りの友人や知人が買ってくれたり、行商に出たりして「アジが1枚売れた!今日は2枚売れた!」というところからのスタートで、現在に至っています。

―― それなのに、独立して干物屋を続けようとしたのはなぜですか?

干物づくりを手伝うようになって、仕事を覚えてしばらくすると「こうしたら美味しいのでは?」とか「ああしたらもっと良いかも」と思うことが出てくるんです。でも老舗のやり方なり、伝統があるじゃないですか。なかなか、そう変えることはできないものなんです。

それが独立して自分でやる、となったとき「自分のやり方でやってみて、ダメだったらたためばいいや」と思えて、独自のつくり方を試してみることにしました。

―― 干物に関する考え方が変わった、ということでしょうか?

独立してからは、自分のやり方でやるわけですし、そこにやっぱり責任がありますからね。味もそうですし、出来栄えに関しても。

―― 干物の出来栄えに一番影響するのは何ですか?

風や晴れ具合や日照時間もありますしね。この時期、晴れていると干す時間は2時間かかるかかからないか、くらいです。皆さんが思っているより、結構早いんです。

干し場は上(作業場の前)と下(海に近い場所)の2箇所あって、季節や天候によって使い分けます。例えば今、上にこうして日が差していますが、冬は午後1時まで日が差さないんです。夏だと下のほうは7時には干せる状態になりますね。大体、上と下で誤差が3時間~4時間あるんです。夏はそこの山が育って太陽をさえぎってしまうんです。季節=日照時間になるので、干し場を変えたりして工夫します。

―― 日差しに長い時間あてるほうが良いのですか?

いえ、そうではありません。陽に当てる時間が多すぎると、魚が乾く前に煮えてしまうんです。この「煮えてしまう」ってニュアンスがすごく難しいんですけれど、乾くのと煮えるのでは全然違いまして、干物の場合は絶対に煮えちゃいけないんです。

魚には水分が含まれていて、それがちょうどいい具合に乾く前に日光が入りすぎると煮えてしまうので、扇風機で風を当てて煮える前に乾かします。乾きの遅いものから先に干していくために、作業の順番や工程を変えたりしながらつくっています。

■干物づくり

▲その日につくる魚をおろします。多いときでは1000尾にも。スパスパと気持ちよく包丁を入れる藤間さん。「切ろうとしちゃダメですね。切ってくれるのは包丁で、人間は魚を押さえて、包丁を動かすだけですよ」

▲血合いをきれいに洗い流す。「歯ブラシが一番、きれいにできますね」

 

▲塩水に漬け込む(魚によって時間は調整)

▲天日干し用の網に並べ、特製タレを刷毛で塗る

▲天日に干す。日照時間や風、温度など気象のあらゆる条件を見ながら、干し場を変えたり時間を調整。仕上げを判断できるのは藤間さんのみ

▲干し終えたらマイナス30度の大きな冷凍庫へ


「干すまでの作業は一緒にやりますが、仕上がりを見きわめるのは藤間さんしかできない」と、作業場にいらっしゃったスタッフの方がおっしゃっていました。あらゆる状況を見ながら、干物の出来具合を見極める藤間さん。次回は恒例「5つの質問」で、干物づくりと天気の関わりについてお聞きします。

取材協力:干物屋ふじま http://yoshi-uo-tei.shop-pro.jp/
干物ダイニングyoshi-魚-tei http://yoshi-uo-tei.com/