ラグビーやサッカーなどのスポーツはもちろん、アーティストのライブイベントなどで利用されているグラウンド。いつも美しく緑色に保たれているのは、グラウンドの管理をしている方がいるからこそ。さまざまなお仕事と天気の関係をお聞きする「天・気になるシゴト」、第4弾は国立競技場・秩父宮ラグビー場の施設管理をされている、渡辺茂さんにお話を伺います。
渡辺茂さん
―― グラウンド(施設)の管理とは、具体的にどのようなお仕事なのでしょうか
日常的な芝の管理・育成と、イベントに関わる準備ですね。サッカーの試合、陸上競技、イベントなどがあるとき、それぞれ用途に合わせてグラウンド面の進行をします。
大体ラグビー場の場合は8月下旬から翌年の1月末頃までがシーズンで、それ以外ですと夏は花火大会や、コンサートなどが開催されることもあります。作業自体は、今は外部の方に委託しているので、作業の管理監督をしています。
―― 芝は、どのような状態を「良い」というのでしょう?
均一に生えていて、雑草の進入がなく、見た目も均一な色で仕上がっていてムラがないこと。あとは、競技に適した芝の刈り高というのがありますが、水はけのよいことなども重要な点になります。
―― ところで、そもそもグラウンドに芝、というのはなぜなのでしょう?
それは、いろいろなスポーツなどで選手がプレーをするときにけがをしないように守ってくれるクッションの役目をしてくれるものだからだと思います。スポーツのグラウンドに適した芝は種類が色々ありますが、ダメージを受けたときの回復が早く、均一に管理しやすい芝生がそのグラウンドの使用頻度や気候などの環境を踏まえたうえで採用されます。
―― 夏も冬も一年中、いつ見ても緑色のような気がするのですが、どのようにして緑色を保っていらっしゃるのでしょうか?
秩父宮ラグビー場の場合は、夏芝と冬芝、2種類の芝で管理をしています。夏芝が気温低下により休眠してしまう前に冬芝の種をまき、夏芝が休眠して茶色くなる頃にちょうど元気な緑色に生え揃った冬芝が夏芝の上を覆い尽くすという風に。そのような方法で今は通年緑化にしていますが、冬芝だけで管理し、通年緑化に取り組んでいるスタジアムなどもあります。
↑写真左手が現在の冬芝。夏芝は、中央部で芽が出はじめている部分。
国立競技場は、1988年頃までは夏芝だけで管理をしており、冬の期間は茶色のグラウンドでした。当時の高校サッカーや大学の選手権、天皇杯などは冬期に開催されますので、茶色のグラウンドで試合が行われていました。その頃の写真をごらんいただければ、わかりやすいと思います。ウインターオーバーシード(通年緑化)に取り組み始めたのは、平成に入ってからですね。
芝の種をまく時期に関してはとても繊細でして、播種する品種等によっては、その後の気象条件によっては芽が出ない、育たないといったこともあるんです。まいた種が全部ダメになってしまう事もありうるので、そういう事態は避けたいですね。そのようなこともあり、気温の変化なども含めた気象状況の把握は大切になります。
―― 冬芝というのは、真冬でも大丈夫なものなのでしょうか?
冬芝も気温が10度以下になると、成長が鈍くなったりほとんど止まってしまったりします。スタジアムによっては、芝生の生育を手助けするために、地面の温度管理をしているところもあります。冬は温め、逆に夏には暑くなりすぎないよう、温度を下げたりします。その構造は、芝の床土の下に温水や冷水を流すパイプがはりめぐらせてあるような構造です。とはいえ、コントロールできない自然にはさからえないですからね、気温と日照などの状態をにらみながら作業を進めて行く事になります。
―― 雨対策についてはいかがですか? 近頃はゲリラ豪雨なども多いと思いますが。
今では多くのスタジアムのグラウンドが30cm程の砂床でできていて、その下に排水溝があり、水はけに関しては通常通りしっかり管理をしてさえいれば問題になることは滅多にありませんし、グラウンドのダメージも最小限に抑えられます。
ただ、水はけについては、悪いと100%悪いか?というと、実はそうでもない部分もあります。水はけが悪いということは、水もちがよいという状態になり、肥料のもちもよいというメリットもあります。土と砂を混合してみたり、私たちの管理してきたグラウンドでは、それぞれの使用状況に合わせ、これまでの担当者等が試行錯誤や工夫を重ねてきました。
―― ちなみに、管理はどのくらいの人数でしていらっしゃるのですか?
通常の管理作業は2名体制です。イベントなどの予定がある時など、その準備のタイミングなどで準備期間がタイトになると応援を頼むこともあり、それは気象状況などにも大きく関わってきます。芝の作業では芝生が良く伸びる時期になると、芝生を刈り取った草の20kgの袋が7~8つですが、雨で1日間が開いてしまうとそれが30袋にもなるんです。晴れているうちに作業しなければならないので、時間や天気との闘いにもなりますね。
たった1日で3倍以上になるとは、びっくりです。競技によって芝の刈り高が違うなんて初めて知りました。芝は「生物」だから伸びたり枯れたり具合も悪くなったり。自然が相手の過酷なお仕事なんですね。渡辺さん、どうもありがとうございました。
取材協力:独立行政法人 日本スポーツ振興センター
(アール)