美しく透き通ったたおやかな肢体、稚魚のような姿のシラウオ。歌舞伎の演目の中に「シラウオ漁が始まると江戸に春がやってくる」という意味のことをあらわす有名な台詞もあるほどで、シラウオは春の魚の代表にあげられます。
透明なのに、なぜ「シラウオ」とよばれるのでしょう。生きている間は半透明だけど、死ぬと白くなるからという説もあります。確かに、食べるときに見る姿は透明ではなく「白」い姿に。ちなみに、シラウオ(白魚)とシロウオ(素魚)は、見た目はとても良く似ていますが別の種類の魚です。
シラウオは「キュウリウオ目シラウオ科」、一方のシロウオは「スズキ目ハゼ科」。生物の種別に良く出てくる「目(もく)」や「科(か)」「属(ぞく)」っていったいなんぞや?という話は、ちょっと長くなりますので別の機会でお話させていただくとして、一番下の細分化された「種(しゅ)」から4段階目にあたる「目」から違うということは、相当違う流れのサカナ、ということになります。
地方によってはシラウオとシロウオ、だいぶごちゃ混ぜに呼ばれているところもあるようですが、ハゼ科に属するシロウオのほうは、ハゼ科特有の吸盤腹ヒレがあり、シラウオにはそれがありません。また「シラス」はいわゆる稚魚の総称のことで、これまた別のものを表しています。
頭の中も少し混乱しそうですが、春の風物詩といえば「シラウオ」。かの徳川家康も大好物で、江戸でシラウオが獲れると「吉兆のしるし」と大喜びし、大名行列を突っ切ってでも献上(徳川家に届けること)を優先させたほどだったとか。鮮度が大事なサカナだからこそのエピソードですね。