実際にあの地震と津波を体験した人から聞かないと分からなかった、超リアルで役立つ情報を、分かりやすく座談会形式でお届けします。
法事でたまたま家族と一緒に被災した菊池さん
■1.その時、本当に必要なものは? 真の情報は被災者が身をもって知り得たものだけ!
――よくテレビなどでも「防災」特集などがありますが、アドバイザーの方が指導している「理想の防災グッズ」について、どう思われますか?
(新沼)
防災グッズも必要かもしれませんが、それを装備してたからといって、あんなパニック時にそれを抱えて逃げられるか、っていうと、答えはNOですね。気持ち的にそんなものを持って出る余裕なんてないですよ。
枕元に靴、これはあれ以来ずっと続けていますね。寝るときは裸足ですからね。真っ暗になったら靴を探すこともできないし。
気がはってるから、当日は飯なんてノドを通りません。次から次へと余震がきて怯えているし。
(新沼)
お腹が減るなんて感覚はなかったですね。それに翌日には行政やレスキューが動いてくれて、おむすびの配給があったり。
命を守って、安全を確保するのが大前提。怪我をしないことも大事ですからね。それこそ病院が機能しているかどうかなんてわからない。そこさえできていればあとはどうにかなりました。
枕元にまず必要なのが靴だったとは。でも考えてみれば当たり前かもしれません。マニュアルも重要ですが、経験者のアドバイスは重みが違いますね。
■2.「あったら良い」というよりマストなのは、そこだったか!
――他に具体的に「これは助かった!」というものがありますか?
(新沼)
アルミシートです。ものすごく薄い素材なんですが、凍えずにすみました。特に冬場は必需品ですね。それとラジオかな。パニックになるのは情報がないから。ラジオならどこかの局が放送してくれていてとても便利でした。
軍手もね。怪我したら元も子もない。
それと、意外と役立つ!と実感したのは、水を入れるボトルと太めのろうそくです。
でも本当、さっきの話に戻るけどやっぱり一番大事なのは命だよね。命を守って、今日、明日を生きること。
――ライフレンジャーとしては、そのために必要な準備もお聞きしたいのですが。
(菊池)
生きるためには逃げる必要もありますが、避難場所までの逃げ道ルートは頭にたたきこんでおかないと、いざっていうとき、どっちに向かって逃げたら良いかわからないと思いますね。
経験から言えることは、とにかく時間勝負ってことですね。常に今ここでなにかあったら、どっちに逃げる・どこに向かう、ってことが瞬時に判断できるようになっていないと。けれど日常から気をつけるって結構難しいかもしれませんね。
今も防災訓練ありますけど、参加者はほんとに少ないんです。
実際、今でも大きな揺れがあると消防署とかが避難を動かすでしょ。でも実際には殆ど誰も避難してこないそうです。この5年間で確実に意識が薄れてきたと思います。
逃げ道確保のシミュレーション、聞いただけでハッとします。5分後に大地震がくるとしたら、今いる場所からどちらの方向に行けば良いか、判断できますか?
■3.意外な落とし穴が各所に!頭に入れておくべきことは?
――あれ以来、ご家族の中でなにか変化や、新たな決めごとができたりしましたか?
(新沼)
まずは自分の安全を確保して、とにかく生きていろ、って。避難場所に指定されている場所から動くな、と。色んな状況があるので、家族で集合する高台を決めておこうと話したりしますね。
ペットも家族の一員としてどう守ってあげるか、考えますね。避難所で人間とペットは絶対に一緒にいられないから。うちのパグは寒さに弱い犬種なので、クルマの中に保護していました。
クルマで逃げる安全な方向があればいいけど、その時々で変わってくる。やっぱり日頃から「瞬時の判断」が必要になりますね。
実際に、歩いてみないとわからないよね。実際の状況を把握しておかないと。それから、自分が体験した中で恐怖を感じたのは、自動ドア。つまり電気がこないと開かないわけで、皆パニックになっていました。
――どうなったのですか?
(菊池)
そのときは、たまたまこじ開けることができて出口を確保することができたけれど、窓から逃げることになると、お年寄りには厳しいですし。
自動ドアって、こじ開けるには相当な力が要りますよね。電気がこないときの状態を確認しておかないと。実際エレベーターに閉じ込められた人もたくさんいました。
補助電源なんて日頃動かしてなかったら、部品が壊れてて使えませんでしたから。地震で揺れて壊れたり、建物が倒壊して潰れたり、何がおこるか分からない。
自分がいる場所がすべて電気で制御されている建物だったら?壊れた自動ドアを手で開けたことがありますか?非常階段の場所、わかっていますか?
■4.都会の逃げ道は?あなたが今いる場所は、どんな場所?
(新沼)
こうしてお話していて、都会の人はどこに向かって逃げるんだろう?と思いますね。
この辺だと、皆、道路に逃げてきました。建物が倒壊するかもしれないから。道路の真ん中で、揺れるたびに方向を確認しながら移動していましたけど、都心の場合は、どこに逃げて待機すればいいんだろう?
高層ビルとか立ち並んでいるから、相当離れないと倒壊したら下敷きになりそうですもんね。倒壊を考えると、下に逃げるより上に逃げた方がよいのかも?
(菊池)
そういう意味では東北の場合は広い場所があるから、東京(都会)はリスクが高いよね。こっちは、避難場所さえしっかり分かっていれば、細かいルートの指導はないけれど、都会の場合は逃げ道(ルート)の確保が重要だと思います。
ビルの避難経路はかなり大事ですよね。階段の場所とか、避難ドアの確認とか。確認していてもあのパニック状態で判断できるかどうか?
海では漁業が再開し、静けさが戻った。けれど、またいつ「あの日」を迎えてしまうのか誰にもわからない
災害は、どんな場所にいるときにおこるか分からない。何をしているときにおこるか分からない。何時におこるか、わからない。
取材協力:よしの珈琲