【3.11特集】東日本大震災発生から7年目を迎えるにあたって① 今、被災地では

3.11東日本大震災から7年が経ちました。ライフレンジャーではこれまで、宮城県・気仙沼市で被災した方、岩手県大船渡で被災した方など、実際に被災された方々のお話を伺ってきました。そこで感じたことは「震災の被害は今も続いている」ということと「防災意識は継続していない」ということでした。

2011年の東日本大震災発生から7年経った今「続いている被害」とはどのようなものなのでしょう?また、それに対してどのような活動が行われているのでしょうか。2018年の「3.11特集」は、福島県で「リスクコミュニケーション」に携わっていらっしゃる福島県立医科大学の村上道夫准教授にお話を伺いました。

■ 学問で“リスク”を見る?

僕の専門分野は、公衆衛生学をルーツにした環境工学です。公衆衛生学は医学の枠組みと工学の枠組みに分かれますが、工学では衛生工学や土木工学などがルーツとなります。(村上准教授は博士(工学))
例えば道路のホコリを採取して化学物質を測り、この物質がどこからやってきてどう動いていくのか、それによってどんなリスクがあるのかを数値化します。ひたすらサンプリングと分析のマニアックな世界です。
東京に住んでいてこういった研究を行っていた中で震災が発生しました。その時に、自分や家族のために、食品の中にどの程度の量の放射性物質が含まれ、どのくらいのリスクなのか知りたい、と思って始めたのが、現在にいたるきっかけとなっています。

■ どちらのリスクを取るか?

リスクとリスクを比べて、どちらのリスクを取るか?例えば、水道水に含まれているコレラ菌などの病原性微生物を殺菌するため塩素が使われていますが、1970年後半頃には、塩素によって発がん性物質が生成することが判明しました。「塩素で消毒しなかった場合の病原性微生物の感染リスク」と「塩素で消毒した場合の発がんリスク」という二つのリスクについて評価し、「塩素で消毒する」ほうが圧倒的にメリットがある(塩素で消毒しなかった場合の病原性微生物の感染リスクの方が高い)ので、塩素消毒を選択する。いわゆるリスクトレードオフの考え方ですね。リスクトレードオフとは、悪影響を与えるなにか1つのリスクを減らすために、別のリスクが発生して(増えて)しまうことです。あらゆる角度からリスクの評価をしなくてはなりません。僕が研究しているのは、震災時に起こった事故によるリスクや、他のリスクを数値化することでもあります。

■ 福島とのつながり

震災当時、僕は東京に在住しており、医学が専門でもなく福島とのかかわりはまったくありませんでした。「自分や家族が食べているものの中にどれくらいの放射性物質が含まれているか」という研究・発表をしたときは、福島に来た今になって思えば、もっとほかの重要なことをするべきだったのではというようにも感じます。ですが、当時、あるいは今でも、あまり根拠もなくさまざまな意見を発表したり意見を述べたりする人が多いように感じていましたので、研究者の端くれとしてちゃんと計算・研究してからデータを発表したいと思い、事故発生から1年以内に論文を発表しました。
日本では環境リスク学はとても盛んに行われており、研究者も多いんです。論文を発表した後で、環境リスク学の先輩方からお誘いを受けて、福島での除染の効果を評価するプロジェクトチームに参加しました。こういった一連のことがきっかけで、福島で研究を始めることになりました。

(取材協力:福島県立医科大学 村上道夫准教授)

福島に移住し、福島県立医学大学で研究を進める村上准教授。特集第2弾では、福島で行われている「リスクコミュニケーション」の活動についてお話を伺います。

(アール)